文字の寄せ集め

つれづれなるままに、日ぐらしパソコンに向かいてカタカタ

幻の金色のウサギ

「おおい、君。急で悪いが森でウサギを捕まえてきてくれないか。得意だって聞いたぞ、こういうの」
確かに得意だ。そして一番目か二番目に好きな仕事でもある。まさに適任。
「体長40センチくらいのならどれでもいいから。一羽。任せたよ」
任された私は森へ駆け出す。こんな仕事が舞い込んでくるなんて今日はついてるな。

この時期にウサギということは、さてはイースターの準備だな。そんなことを考えながら森の茂みに目を凝らす。せっかく私に任せてくれたのだ。「ウサギ探し名人」としては、やはり可能な限り最高のウサギを連れ帰りたい。

さて、この場における「最高のウサギ」とは何か。そこから始めなければならない。イースター用のウサギということは、子どもたちにイースター・エッグを届ける「イースター・バニー」を担うウサギということだ。ならばまずは大役を果たしうる責任感が求められる。次いで、きちんと卵を配り終えるだけの体力と要領の良さ、それから子どもに好かれる愛嬌も欠かすことはできない。経験者であれば文句なし。

名人のプライドと凝り性な性格とで、理想はいやに高くなる。これは森の奥まで分け入らないといけないな。

ずんずん森へ入っていくと、立派なウサギが見つかった。足の速いウサギに賢そうなウサギ、人懐っこくて可愛らしいウサギ。いずれもイースター・バニーとして申し分のない子たちである。もう十分だろう。

……でも、と私は思う。そうじゃないんだ。私が連れ帰りたいのは、みんなが待っているのは、「最高のウサギ」なんだ。私なら見つけられるはずだ。もっと、もっと探さないと……

その時、木立の間に光る影が——全身を金色に輝く毛で覆われた、ルビーのような紅い眼のウサギが、じっとこちらを振り返り、森の奥へと消えていった。幻の金色のウサギだ!

あれだ、あのウサギだ! 追いかけないと! これでみんなも喜ぶぞ!

「おーい、そこまで行かなくていい、戻ってこーい」
森の入り口から呼ぶ声がする。いつまでも私が帰らないから呼び戻しに来たんだ。
「大きさが良ければそれでいいから、あんまりこだわることはないよ」
でも金色が、金色がそこに!
「金色じゃなくていいんだ。その辺で普通のを捕まえてくれればいいんだ」
……仕事だしな。依頼主がそう言うなら仕方ないか。
まあ君かな、と、賢そうなウサギを連れて、来た道を戻ることにした。

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職場の人に対して以上のようなたとえ話をした。エクセル好きな私が、エクセルの仕事を頼まれると完璧を求めてひた走ってしまうことについて、である。言いたいことは伝わったようだった。おまけにハハハと笑ってくれた。

もっともエクセルばかりが私の仕事ではないので、実際にはもう少し力の入れ方や優先順位を考えている。このたとえ話は多少大げさにしている部分もあるが、気を抜くと今日も「幻の金色のウサギ」を追いかけそうになる。