文字の寄せ集め

つれづれなるままに、日ぐらしパソコンに向かいてカタカタ

新しい五十音表

先日外食に行った際、隣の席から賑やかな声が聞こえてきた。家族連れで、小さい子どもが二人いた。3歳くらいの妹と、少し上のお兄ちゃんだった。

女の子の方を「めいちゃん」としよう。めいちゃんは元気で良く喋る女の子だった。「めいちゃんあれ食べる」とか「おかあさんにあげる」とか始終そんな風で、言葉を話せることが嬉しいといった具合だった。

しばらくすると、めいちゃんは覚えかけの「あいうえお」を声高に繰り返しだした。
「あ・い・う・え・お! あ・い・う・え・お!」
興が乗ってきためいちゃんは、ア行以外にも挑戦しだした。
「た・き・つ・せ・の! た・き・つ・せ・の!」
実際に何と言っていたかは覚えていないが、だいたいこんな感じだった。少なくとも母音だけはあっていたことを覚えている。

 それを聞いたお母さんは、はじめに一度だけ「たちつてと、だよ」と訂正していたが、それ以上の指摘はしなかった。このお母さんがどういう気持ちでいたかわからないが、私はこの子の自由な五十音を微笑ましく思った。正しいタ行が言えなくとも、めいちゃんは日本語の5つの母音と、五十音表における母音の並びを理解しているのである。今はそれで十分だと思うのだ。タ行はまた今度覚えたらいい。

 

タ行とかハ行とかいう形で音を分類する仕組みは、なかなか複雑だと聞いたことがある。たとえばハ行と聞けば、「h + 母音」という風に、同じ子音をもった音の集まりだと考えるだろう。h の音に a をつければ『は』、h と i で『ひ』、以下略、ということである。しかし実は「は」は口の奥の方で出す音で、「ひ」は口の中央あたり、「ふ」は唇というように、発声に用いる部位が異なっているのである。

タ行も同様に、「た」「て」「と」の3音は同じ場所で発生するが、「ち」と「つ」はそれぞれ異なるらしい。ヘボン式のローマ字でタ行を綴る際、ta chi tsu te to となるが、「ち」と「つ」の子音が異なっているのはそういう理由だそうな。

タ行といって一括りにしておきながら、その実、子音がバラバラであるということが、外国人の日本語学習者は難しい要素らしい。「た」の音の子音のまま「ち」を発音するので「てぃ」になり、「つ」は「とぅ」になる。どこの人にとっても外国語を学ぶのにはいろいろな壁がありますね。